◆素人だけど、なるべく素人っぽくない花を生けたいあなたへ

 いけばなの経験など皆無なのに、花を生けなければならない状況に追い込まれる……これ、女性にはたまにあることです(男性はあまり無いかもしれません)。
 たとえば、会社の受付の花を、「庶務課の女性で生けてください」と言われるとか、
 結婚したら、床の間に花を生けるのが当然の家だったとか、
 商売柄(和食屋とか)、年に数回、お節句時期にだけは花を生けないといけないとか……
 まあ、色々なことがあるわけです。 

 管理人の昔の勤め先では、会議室の中央に置く花を、若い女性たちで生けさせられていまして、管理人自身はいけばな経験者のため何ということもなかったのですが、花鋏を持ったことも無い人が、「正面の無い花(部屋の真ん中に置く花は、特定の正面は無く360度どこでも正面です。結構難しいことです)」を問答無用で生けさせられることに同情したものです。

 「できません」と言えればいいのでしょうが、「生けろ」と命じる人は、たいていは生けられない人の苦労を分かってくれません。
「ただ挿しとくだけでいいから。適当にささっとやっといて」
みたいなことを言われるんですよね。で、嫌々ながらも「ただ挿しておく」と、多くの場合、「本当にただ挿しただけの棒立ちいけばな」が出来上がります。
 棒立ちいけばなは、生けた本人に「羞恥心」「納得いかない感」をもたらすことが多いものです。その結果、「受付の花を生けさせられるのだけはキライ」というようなことになっていきます。

 そこで、誰にでもできる範囲で、「本人が納得いかないほどの棒立ち」から脱却する術をご紹介したいと思います。
 私が、ほぼ成り行きで生けた花を、「どうして、こう生けたのか」という簡単な解説付きで紹介いたします。「成り行き」なので、要するに「なんとなく」でここまでできる、というところを見ていただきたいと思います。
 この記事で紹介されている「脱却の術」を、すべて覚える必要はありません。自分でもできそうなところだけ、ちょちょっとつまんで持ち帰ってください。
 難しい技法は、いっさい使いません。小学生でもできるレベルを目指してみました!

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◆棒立ちの実例

 まずは、上で書いている「棒立ちいけばな」の実例を出してみましょう。これは、私自身が「素人棒立ち風」に生けてみたものなので、真のドシロウトさんの棒立ちよりも、少しはマシかもしれません。
↓こんな感じが、「棒立ちいけばな」です。

 人によっては、「全然大丈夫ないけばなじゃん」と言うかもしれません。特に、上に書いたような、「適当にやっといて」という人などは、そう言いそうです。
 でも、よく見てください。花は全部ほぼ垂直に立ち、長いものは長いままです。要するに、花屋が紙に包んできた花を、ほとんど何もしないでまっすぐ剣山に挿したのが、上の画像の生け方なのです。花材は、鋏を入れずに使っているので、花器に対してやたら長大ないけばなになっています。
 私は、剣山に花を生け慣れているので、これでも花の足元がキレイでして、そのために「壊滅的ダメ花」をややまぬがれかけてます。上と同じ形でも、なれない人が足をゴチャゴチャに挿すと、
「ああ、下手な人が挿したんだな〜」
ということが、素人にも伝わります。
 これが、「駄目な例である、棒立ちいけばな」です。

 以下の項では、「ただ、挿した」だけじゃないんだぞ、「生ける」という作業をしたのだぞ!と、人に感じさせるような生け方を、上と同じ花材で、できるだけ簡単にやってみようと思います。
 ここで紹介する生け方は、いけばな理論みたいなものとは無縁です。その場だけをなんとかできればオールOK!という思想で生けていきます。

【その1】花器に剣山をセットするところから始めます

 仕方なくいけばなをしなければならない状況というのは、花・器は決まったものをあてがわれている、ということも多いかと思います。
 ここでは、「会社とか、学校とか施設とかで、いけばな的なものが必要なときに良く出てくるような道具立て」でやってみようと思います。

 花器は、水盤が多いんじゃないでしょうか。そして、それに剣山が1個ついてくる、という感じではないでしょうか。


 もしも、剣山を選べる状況があるなら、なるべく大きい剣山を確保しましょう。こちらの記事:剣山は、自分に都合が良いように使え! にも書いているのですが、小さい剣山だと、植物が刺さったままコロンコロンとひっくり返り、全然留め具になってくれないことがあります。ドシロウトさんが使うなら、何があっても倒れない剣山を選ぶほうが得策です。また、剣山が複数あるなら、「とりあえず二つは確保」することをお勧めします。2つ確保する理由は、剣山は、自分に都合が良いように使え!にも書いているように、「一つに花を挿し、もう一つは重石にする」ためです。

 剣山の位置ですが、この記事では真ん中に置いて話を進めます。
 本当は、剣山の位置なんて、自分の好きなところに置けば良いと思います。でも、何も分からない素人さんに「好きな場所へどうぞ」と言われても困るだろうと思い、「とりあえず、真ん中置き」にしてみました。

 もしも、「私は真ん中はイヤ」と思われたら、自分の好みの場所へ置いてください。ちなみに、私個人の好みだと、とりあえずここにおきたいところなんです。(草月人の習性です)

 剣山は、場所を後から変えてもいいので、置き場所にそんなに神経質になることはありません。いけばな経験者でもよくやる方法なのですが、左端に置いていた剣山を、右端に移動させてみたらそっちの方がカッコよかった、ということもあるのです。なので、真ん中置きで生け始めて、最後に器の中で移動させてみて、一番カッコいいところを探すのもアリです。

 あと、剣山の置き方としては、上の画像でそうしているように、「長方形剣山を使うなら、縦長置き」を推奨したいと思います。横長置きすると、足元がベロ〜ンと広がってしまうことがあるからです。花を挿している幅が狭いと、勝手に「キュッ」と引き締まって見えるので、縦長が良いと思います。

【その2】花屋が組み合わせた花は、基本的には生けやすいセットになっている

 今回の花は、たまたま花屋さんから提供花材としてもらっていた三種類一組のセットを使うことにします。内容は、

 まあ、よくあるような組み合わせの一つでしょう。
 花屋さんが組んでくる花は、基本的には、
「こんな感じが生けやすいかな」
「これだけあれば十分形になるだろう」
ということを考えてセットされています。(お値段にもよりますが、たまに、「こんなセットありですか!」ということもあるけど……)
 上記の、三種類の花材も、

@キバデマリ……枝のもの


Aカラー……長さとインパクトのあるメイン花もの


B小菊……隙間や根本を埋められる小花

という、三要素をそろえてくれています。

【その3】一番最初はこう挿せ!……「もっとも立派な枝を、とりあえずまっすぐ立てよう」

 花屋さんに組まれたセットには、「これで輪郭を作れ」という花材があるものです。たいてい、枝とか葉っぱとかが「輪郭用」です。この記事で扱う花で言うと、「キバデマリ」が輪郭用です。
 花ものだけだと、どれが輪郭用なのか、素人さんには見極めが難しいかもしれませんが、大雑把に言うと、「線の要素があるもの」「面の要素があるもの」が輪郭にしやすいです。が、もしも分からなかったら、「この花が一番リッパだ」と思うものを勝手に輪郭用として作業を進めましょう。

 で、輪郭用の枝の中で、一番これがリッパだと思う一本を取り、器にちょうどいいくらいの長さに切ります。私は、感覚で切ってしまうのですが、どれくらいか分からない人は、「器の直径の2倍から3倍の間」で切ってみると大体収まりが良いとおもいます。(後々失敗して切りなおすかも……と思う人は、三倍で切っておきましょう)
 切った枝は、ほぼ垂直に剣山に立ててください。(剣山に挿し方が分からなかったら、こちらを参考に→枝を剣山に挿すときには


 これを、メインの枝としましょう。
 一度挿したら、「垂直じゃないかも」と思っても、挿しなおししなくていいです。上の画像の、私の挿した枝も、全然垂直じゃないでしょ? 少しくらい傾いているほうがプロっぽく見えたりもするので、あなたが挿したそのままでいいです。
 挿しなおしすると、枝の挿したところがグズグズになるし、時間も余計にかかるし、何より「迷い」が発生する元になります。

【その4】二番目の枝を挿す

 1本挿せたら、二本目も挿しましょう。どこに挿してもいいですが、1本目の枝はメインですので、二番手がメインの人よりも目立つと色々面倒です。なので、最初に挿した枝よりも、短く切って挿しましょう。


 左に傾いた枝を1本足しました。

 なぜ左に出したのか、ここでは「なんとなく」の意識でしか生けていないので、私本人にもあまり自覚がありませんが、メインの枝も左に流れているので、「だったら、左の流れに乗っかろうか」くらいの気持ちで挿したような感じですね。

【その5】メインの花を挿す

 メインの花は、どう考えても小菊よりカラーでしょう。なので、カラーを1本入れることにします。
 メインの枝を真ん中に挿したように、メインの花も真ん中に挿しましょう。

 ど真ん中に挿す理由は、「とにかく中央に視線が集まるようにしておくと、素人でも乗り切れる」からです。真ん中がぱっくり空いていると、
「スカスカな花だなあ」
という印象になり、「ヘタかも」「安っぽい」「花を挿し忘れている?」などと感じさせる原因になります。
 また、メインの花は、メインの枝よりも短くしておきましょう。メインの枝は「輪郭」を作っているのですから、輪郭から目鼻が飛び出さないほうが良いです。

 今回、カラーが二本あるので、二本目のカラーも、続いて挿してしまいましょう。


 二本目のカラーも、真ん中辺に入れて、中央に視線を集める作戦を重ねます。
 最初に挿したカラーは、上にすくっと立っているので、花の顔がこっちを向いていません。なので、二本目のカラーは、少し花の顔(紙を巻いたみたいになっている花の中の方)をこっちに向けました。こうすると、花と眼が合ってるみたいで、ますます人の視線は中央に集まります。
 全体像のことを言いますと、この時点で、なんとなく「優しく上に開いている形」という路線ができあがってきつつあります。その路線に、まだ挿していない材料たちを全部乗っけて終了にしましょう。

【その6】がら空きな部分を小菊で埋める

 上の項で見つけた「優しく上に開いている形」の路線を、残った花材を使って補強していきます。

 まだ手付かずで残っている花材は、小菊だけです。小菊は、本数でいうと二本しかなく、そのまま一本ずつ入れると、「二箇所にしか入れられない」ことになります。
 しかし、上の項の画像をご覧ください。水盤の中に開いている場所は大きく、二本挿して終わりにしてしまうと、埋め切れなかった部分がたくさん残ってしまいます。

 そこで、小菊の本数を人工的に増やします。小菊には、枝分かれがたくさんあるので、枝ごとに分解すれば、本数を劇的に増やすことができます。
 要するに、下の画像の赤の部分で枝をカットすると……


↓あっという間に、小菊が5本になりました。

 もう一本の小菊も同様に分解したら、小菊の数は10倍にもなるわけです。もちろん、元の小菊をばらしたのですから、「本数」は増えたけど、全体の嵩は増えてはいません。要するに、大きい塊だったものを、小回りがきくように形を変えたのです。

 で、小回りがきくようになった小菊をどこに入れたいかと言いますと、がら空きな部分に入れたいのです。がら空きな部分とは、下の画像の、赤丸の部分です。

 要するに、カラーの花の下辺りと、カラーの左右ですね。このあたりを埋めましょう。このあたりさえ埋めてしまえば、ほぼ完成です。

 完成に向けて、埋めてみた!

 おお、だいぶ埋まってきたぞ。でも、まだ少し小菊が残っているので、手前の部分に入れてみよう(足元を固めて安定させて見せる作戦)。

↓これでどうだ!

 ここで終わりにしても大丈夫だと思うけど、実はまだ、キバデマリの枝が残っていたりするので……


右側に、少し枝を足しました。これにてフィニッシュとします。

 一番最初に出した「棒立ちいけばな」と比べると、こうなります。
【Before】
【After】
 「ビフォー」より「アフター」の方が、かなりいけばなっぽく見えるでしょ?
 
 もっと「いけばなっぽく」したい方向けに、さらなるオマケとして、二つのコツを下記で紹介します。

【おまけ1】小菊に「こっちを向かせる」方法

 上の「ビフォー」と「アフター」を比べると、小菊の花がこっちを向いているかいないかに、大きな差があります。
 ビフォーは棒立ちなので、小菊がこんな風にささっているんです。

 小菊が、完全に上を向いて立っています。そのため、花の真ん中の部分は見えません。
 しかし、いけばなっぽく生けた「アフター」の画像では、小菊の真ん中の部分がバッチリと見えているのです。つまり、こういう風にささっているんです。
↓ ↓ ↓


 上の画像を、横から見るとこうなっています。
↓ ↓ ↓

 挿し方が、「垂直」じゃなく、斜め挿しなんです。正面から見る人に向けて、花が少し前のめりになっています。

 棒立ちいけばなの垂直挿しと斜め挿しを、それぞれ横から見た画像で比較してみましょう。
「垂直挿し」
「斜め挿し」
 結構違うでしょ? でも、これくらいなら、知っていれば簡単にできますね。
 もちろん、この挿し方は、小菊以外の花でも簡単にできることです。

【おまけ2】足をそろえておけば「ちゃんとしている」ように見える

 いけばなっぽく生けた、「アフター」の方の花の足元は、こうなっています。

 このように、足が入り組んでいないようにすると、多少下手な花でも「ちゃんとして」見えます。

 「足が入り組んでいない」というのは、図で説明するとこういうことです。
↓これ、「入り組んでいない足」のいけばな。


 対して、「入り組んじゃった足」のいけばな。

 いけばな初心者さんの挿し方には、ほとんどこのような「入り組み」が見られます。いけばなを少し経験してしまうと、足が入り組んでいるように生けるほうがかえって難しくなるのですが(現に、私には難しいから、写真ではなく図形を描いて出しているのです)、完全なる「素人・手探り・ノープラン」で生けると、入り組みが起きてしまうようです。

 「入り組んだ足」は、なぜか見る人に、「なんとなく不自然で、だらしない」と感じさせるものを持っています。表面だけキレイにお化粧していても、実はだらしないのがバレバレな女、みたいなことになるのです。なので、「入り組み」は、できれば意識して避けられると良いと思います。
 入り組ませないのは、慣れれば簡単なことで、たとえば、「右方向に出す枝を、左隅にさしたりしない」程度のことで回避できます。


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