◆菊のウエディング  エラリー・クイーン「顔」

 エラリー・クイーンのミステリでは、作品中に結婚式のシーンが出てくることがよくあります。いつまでも幸せな二人の結婚である場合もありますが、物語の最後には、夫婦のどちらかが警察に連れていかれてしまう場合もあります。

 殊更にドラマチックなのは、名探偵が式を遮って、事件の謎解きを話し出すパターンです。このパターン、二作もありまして、1つは『生者と死者と』。もう1つは、このコラムで紹介する『顔』です。
 『顔』の結婚式の設定は、非常に変わっています。なんと、結婚式は名探偵エラリー・クイーンの家の居間で行われるのです。
 お料理も、結婚式を執り行う判事も、花の手配も、すべてクイーン警視(エラリーの父親)と花婿が用意したのでした。二人が用意している間、主人公のエラリーは何をしていたかと言うと、「どーしよー、どーしよー」と悩んでいました。
 なぜなら、彼はこの結婚式の場を利用して、犯人を指摘しようとしていたからです。花婿は、彼が初対面で意気投合した友人でしたから、その人の結婚式を策略に使うようなことを、本当はしたくはなかったんですね。でも、この機会を逃すと、犯人を永遠に検挙できないかもしれないと考え、エラリーは結婚式をめちゃくちゃにしてでも、正義を貫こうと心を決めます。

 結婚式のための花は、花婿自身が花屋に注文し、届けさせたものでした。
 実はこの結婚式、その日の朝に、クイーン家に花婿と花嫁が現れて「私たち、今日NYで結婚しようと思います」と報告し、クイーン警視が「じゃあ、ここですれば? 知り合いの判事を呼ぶから」と言ってあわただしく準備を始めた急なものでした。
 式は、夜の7時に始まり、そのときまでに、花嫁のマフにはくちなしの花が添えられ、の花が生けられた大きな花かごが、居間に運びこまれていました。
 結婚式にとは、日本ではほとんどありえません。は、あまりにも仏様のイメージが強すぎますから。しかし、外国の方はこのような偏見は持っていないので、実に気軽に白菊の束をプレゼントに使ったりします。一度、TVドラマのチャーリーズ・エンジェルで、白と黄ので作った結婚式の花かごを使っているのを見たことがありますから、アメリカではポピュラーな使い方なのかもしれません。
 『顔』のの花色は、原作に書いていないので不明ですが、おそらく白を主にして、色菊も少々入れてあるタイプではないかと、私は推測します。
 急な式ですから、花屋さんも急に頼まれたわけで、「ブライダルの当日発注かよ!」とココロの中で突っ込んでいたと思いますねえ。式の直前に、花嫁がクイーン家の冷蔵庫からブーケを取り出すシーンがありますので、花屋さんは「式が始まるまで冷蔵庫で保存してくださいね」と注意するのを忘れなかったのでしょう。
 この型破りに急な式は、花嫁の介添え人も急に決まりました。招待客の一人に、急遽介添えを務めてもらうと、花嫁が求めたからです。
 用意されていなかった介添え人のコサージは、クイーン警視が機転をきかせて、花かごから何本か花を抜き取り、クリスマス時期に取ってあった白いリボンをどこかから出してきて、即席で作ったのでした。
 コサージを、パパッと作ってしまうクイーン警視が素敵!! 男の人にはなかなかできない芸当です。

 最終的に、結婚式はどうなったかと言うと……かなり悲惨なものになってしまいました。結婚の当事者も傷つき、友人だったエラリー自身も傷つきました。最後に、友人を失って立ち尽くすエラリーに、クイーン警視は「エラリー、行こう。コーヒーをおごるよ」と声をかけます。クイーン警視、いいところを持っていくね!

【「顔」データ】
◆原題: Face to Face
◆1967年刊
【邦訳:出版状況】
◆尾坂力訳 「顔」 ハヤカワ・ポケット・ミステリ(早川書房)1976年刊
尾坂力訳 「顔」 ハヤカワ・ミステリ文庫(早川書房)1979年刊


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