◆「その」蘭  ジョン・コリア「みどりの想い」

 いやー、架空植物ばかりで申し訳ない。そして、またまた食肉植物で、まったく申し訳ないです。怪奇小説はこうでなくちゃね〜。
(上に貼った画像は、ホップです。作品中で、「その蘭」はホップに似ているとされているので貼ってみました)

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◇その蘭は、品種不明

 「その蘭」は、名前の分からぬ謎の蘭です。蘭マニアのマナリング氏がどこかから入手したもので、「誰も見たことの無いような薄気味悪い様子」をしています。
 まあ、そんな薄気味悪いものなど栽培しなくても、と思いますが、そこがマニア根性ってやつでして、マナリング氏は、珍しさに興奮し、温室の中で大切に育て始めたのでした。
 この蘭は、どんな蘭にも類似していない、と記されています。

 別ページで紹介しているトリフィド紫の宝石もそうですが、架空植物というのは、どうも作家が、あまり詳しくその姿を描写しないもののようです。うーん、なぜなんですかねえ。読者の想像に任せたほうが良い、ということなんでしょうか。あるいは、「無いもの」を文章で説明することは難しい(絵とか、映像であれば具体的に示せますが)ということなのでしょうか。
 ただし、この小説では、「その蘭」のことを、マナリング氏の従妹のジェインが「ただのホップよ」と言っています。ホップ(ビールに使われる、あれね)に似ている蘭というのが、私にはあまり想像できないのですが、要は蔓性だってことのようです。それを踏まえて、もう一度記事の上に貼ったホップの画像などご覧ください。

◇蔓がもたらす恐怖!

 この蔓がね、大変なことをするんです。マナリング氏は、この蔓を、「何かの器官が退化した痕跡だろう」などと推理していますが、ぜんっぜん違うんですねえ。

 育て始めて間もなく、マナリング氏は、「その蘭」の花がちっとも美しくないことを知ってがっかりします。つぼみはたくさん付いたのに、大きさも形も、まるで蠅の頭みたいな花だったんです。
 ところが、もうしばらくすると、俄然大きなつぼみがもう一つできてきました。
 それが咲いたら、なんと、猫の頭そっくりだったんです! 勘の良い方はそろそろお気づきでしょう。

 まだわかんない方のためにヒント。猫の花が咲く少し前、ジェインの飼い猫が姿を消しているんですよ。ね? 分かった?
 そうこうしているうちに、従妹のジェインも謎の失踪をしてしまいます。ジェインそっくりの花も、いずれ咲くことになるのです。そして、マナリング氏の背後にも、じわじわと緑の蔓が忍び寄る……。
 この小説の面白いところは、作者コリア独特の、ブラックでありながら奇妙にとぼけた味の文で、主人公が蘭に食われた後の心情までを描いているところです。
 「食われちゃいました、終わり」じゃないんですねえ。「花になったマナリング氏」に、読者は会えるのです。
 ただ、この物語は、ハッピーエンドではありません。
 だって、怪奇小説ですし、なんたって、ジョン・コリアの作品ですから。

【「みどりの想い」データ】
◆原題: Green Thought
【邦訳:出版状況】
宇野利泰訳 「怪奇小説傑作集2」(「みどりの想い」他14編収録) 創元推理文庫(東京創元社) 1969年刊
◆中西秀男訳 「ジョン・コリア奇談集U」(「みどりの思い」他21編収録) サンリオ文庫(サンリオ) 1984年刊 絶版
宇野利泰訳 「変身のロマン」(「みどりの想い」ほか14編収録) 学研M文庫(学習研究社) 2003年刊
中西秀男訳 「ザ・ベスト・オブ・ジョン・コリア」(「みどりの思い」ほか19編収録) ちくま文庫(筑摩書房) 1989年刊 絶版
宇野利泰訳 「怖い食卓」(「みどりの想い」ほか11編収録) 北宋社 1990年刊 絶版




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