◆紫の宝石  ナサニエル・ホーソーン「ラパチーニの娘」

 またまた架空植物ですみません。しかも、ミステリでもなく、『緋文字』で有名なホーソーン作の怪奇小説です。

※かなりネタバレしています。ご注意ください!!!

 物語の主人公ジョバンニは、植物学者ラパチーニの美しい娘・ベアトリーチェと恋に堕ちます。二人が毎日のように逢瀬を重ねるラパチーニ邸の植物園には、宝石のごとくに美しい花をおびただしく咲かせる灌木があります。それが「紫の宝石」です。

 ちなみに、「紫の宝石」という名はこの植物の正式名ではありません。植物の名は、作品中でも語られないのです。ただ、宝石のような光沢のある花なので、ジョバンニがこのようによんでいるのです。
 花の姿は、これ以上詳しくは描写されていません。この花の存在は、物語の要になるのですが、繰り返し「宝石」とよばれるだけで、読者のイマジネーションの中でのみ、真の花を開くように描かれています。

◇「紫の宝石」の正体は?

 で、この花の正体ですが、とんでもない毒草なのです! 生物なら、近寄っただけで倒れて死ぬという猛毒植物で、ラパチーニの研究により生み出されたものです。
 近寄れないならば、どうやって世話をするのかと言うと、なぜかベアトリーチェ一人だけがこの植物に触れることができ、まるで家族に接するように育てています。

◇ベアトリーチェの秘密

 なぜ、ベアトリーチェは毒草に触れて平気なのか? そこには、ラパチーニの研究に関わる恐ろしい秘密が隠されています。

 ラパチーニは、自分の専門分野である毒草の研究に没頭するあまり、自分の娘まで毒で育ててしまっているのです。だから、ベアトリーチェにとって、毒は空気や栄養のようなものであり、ベアトリーチェ自身の体も毒で満ちています。
 ベアトリーチェのそばを飛んだ蝶が、はたりと地面に落ちるシーンや、彼女の手の中で、新鮮な花束がしぼんでしまうシーンなんぞで、それが少しずつほのめかされます。(ジョバンニは気づきかけてるのに認めないんだ、これが)

 そして、ラパチーニは、娘にふさわしい伴侶を作ろうと、ジョバンニまでも毒の世界に引き込もうとします。毒娘と付き合っているうちに、ジョバンニは徐々に毒への耐性を備え、自らも毒へと変わっていきます。
 彼は、ある日花束を買い、自分の息で花がしぼんでいくのに気づいて愕然とし、自分の持つ毒に気づきます。
 最後には、解毒剤で救われようとするベアトリーチェに哀しい運命が待っています。

 ベアトリーチェと付き合い始める前に、ジョバンニが彼女に花束を捧げる台詞が、あまりにゴシック小説らしいので、紹介しましょう。

「シニョーラ、ここに清純な健康に満ちた花があります。どうかこれを、ジョバンニ・ガスコンチのために、おつけください」

 どうよ、この台詞!
 現代じゃあ、ちょっと使えないやね。しかも、この台詞と共に、2階の窓から花束を投げ落とすんですよ。見知らぬ者同士なのに。
 この花束のわたし方、インパクトは非常にあると思うので、勇気のある男性はお試しください。ただ、相手が毒娘でも、当サイトでは責任を取りませんが。

◇「ラパチーニの娘」データ

◆原題: Rappaccini's Daughter
◆1844年刊

◇「ラパチーニの娘」邦訳:出版状況






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