◆トリフィド  ジョン・ウインダム「トリフィドの日」

 すんません! 架空植物です。そして、ミステリではなくSFです。
 トリフィドは、『呪われた村』などで有名なSF作家ジョン・ウィンダムの作品に出てくる食肉植物なのです。
 でもね、この植物が、面白いんだ。何しろこいつ、歩くんですよ。

 トリフィドの姿形については、ウィンダムは特に「○○っぽい」という表現をしていないので、まったく読者の想像力に任せられています。分かっていることは、高さが4フィート以上になること。根っこが3本に分かれていること。長い葉柄の先に毒毛を持っていること。これだけです。
 ある程度成長したトリフィドは、3本の根を自ら引き抜き、ほいほいと歩き出す、というわけです。
 え、食肉植物が歩くって、危険じゃん、と思ったあなたは大正解!

 このトリフィド、虫や小動物ばかりか、大きくなってくると人間も食うので、最初は危険植物とみなされて駆除されそうになるんです。
 でも、学者が研究したところ、定期的に生える毒毛さえ切り取ってしまえば危険はいっさいなく、ただの愉快な歩き回る植物だと分かったため、むしろ庭にトリフィドを放しておくのが流行するまでになります。
 朝目覚めて、カーテンを開けると、庭でトリフィドがひょいひょい歩いているという、なかなかにユーモラスな光景が見られるわけです。

 トリフィド、本当にあったら面白いでしょうね! いけばな展の会場なんか、こいつが柵のなかでうろつく作品が絶対に出ますね。ていうか、私が出しますね。
 「会場側より、管理が困難とのことで、今回からトリフィドを生けるのはご遠慮ください」なんて通達が出たりするのでしょうな。
 ……おっと。トリフィドの華道家的想像をついつい楽しんでしまった。

 で、みんなでトリフィド・ガーデニングしているところに、悲劇が起こってしまいます。宇宙からの怪光線により、人類のほとんどが盲目になってしまい、トリフィドの管理ができなくなるのです。すると、今まで庭をほいほい歩いていたトリフィドが、俄然人類に襲い掛かってくるのです。さすが、ウィンダム。さすが、SFの展開です。

 主人公の男は、怪光線を浴びることを逃れた数少ない人類で、仲間と共に、襲ってくるトリフィドたちと戦います。
 夜、寝ている間に、家の周りにぞろっとトリフィドが集まって、電流の流れる(トリフィドは電流が嫌い)柵をぎしぎしいわせてるところなんて、見事なまでの迫力です。
 でも、私たちが知っている植物が、トリフィドのように迫ってきたら、どうでしょうね。
 「朝起きたら、家の周りにぞろっとパンジー」……かわいいじゃん。
 「朝起きたら、家の周りにぞろっとタンポポ」……ほのぼのするじゃん。
 「朝起きたら、家の周りにぞろっとラベンダー」……さわやかだなあ。
 「朝起きたら、家の周りにぞろっと胡蝶蘭」……これはこれで、ちょっとイヤだな。
 またまた脱線してしまいましたが、植物のもたらすSF的恐怖を描いた作品としては、『トリフィド時代』は疑いも無く最高級品です。筒井康隆氏も推薦の1冊です。

【「トリフィド時代」データ】
◆原題: THE DAY OF THE TRIFFIDS
◆1951年刊
【邦訳:出版状況】
井上勇訳 「トリフィド時代」創元SF文庫(東京創元社) 1963年刊
峯岸久訳 「トリフィドの日」 ハヤカワSFシリーズ(早川書房) 1963年刊
◆峯岸久訳 「世界SF全集 bP9」(ジョン・ウィンダム「トリフィドの日」「地衣騒動」を収録) 早川書房 1969年刊
◆志貴宏訳 「世界文学全集47」(H・G・ウェルズ「タイムマシン」、ジョン・ウィンダム「トリフィド時代」、アレクサンドル・ベリャーエフ「ダウエル教授の首」を収録) 学習研究社 1978年刊
◆中尾明訳 「少年少女世界SF文学全集 第19巻  怪奇植物トリフィドの侵略」 あかね書房 1973年刊

 


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