◆花屋さんは、こんな理由で「辞めよう」と思う

 私は、花屋の仕事をやめて去っていった人を何人も見てきました。
 「辞めたい」という相談は何度も受けました。愚痴レベルで「辞めちゃおうかな」という話なら、数え切れないほど聞きました。

 人から話を聞いただけではありません。自分自身も、何度も辞めようと思ったことがありますし、思った結果、A店をやめてB店に移ったこともあります。

 この記事では、花屋さんが、かなり本気で「辞めよう」と考える理由を、自分が経験したり、リアルに見聞したものの中からピックアップしてお伝えしてみようと思います。また、やめていった人が、残る人たちに説明した理由も挙げてみます(自己申告の理由なので、本当にそうだったのか不明なものもあります)。

 それぞれの理由は、花屋ならではのものもありますし、何の仕事にも共通するものもあります。なかなか外に出ないタイプの「花屋のマジデータ」ですので、これから花屋さんになりたい人はご参考に。また、現在「辞めようか」と悩んでいる人の役にも立てたら嬉しいです。

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◆心折れちゃった系が一番多いかな……

 私が、「結局、これが一番多かった気がする」と思うのは、何らかの理由で心折れちゃってやめる人です。
 心折れる理由を挙げてみると、

  1. 体力的にきつすぎるが、シフトが多く入っているので、それを癒す暇もない
  2. 大きく報われることが無い
  3. 低所得すぎる
  4. 接客で、強烈に嫌なやつに当たった
  5. 大きなミスをしてしまった
  6. 劣等感
  7. 店の中の人間関係
  8. 仕事場に、「袋小路感」を感じた
 1の理由は、私もそう思ってやめたことがあります。多くの花屋さんが、一回はこの理由で折れそうになっていると思います。それで、本当にやめてしまうとは限らないですけど、「やめようかな」と思うのは珍しくはないというレベルではなく、結構ポピュラーな話だと思われます。

 2の理由は、環境によっては、大きく報われるどころか、「報われることなんか、一つもない」ということも有り得ます。私が聖人ならば、「お客さんの笑顔ですべてが報われる」とか言いたいところですが、それでつらい業務を帳消しにはできないです(つらさが和らぐことが無いとは言わない)。大して報われることは無いんだけど、この仕事から離れて行こうとは思わない人、要するに、花屋業務と根源的に相性の良い人が残っていくんだと思います。好きで入った花屋だけど、やってみたら、「仕事としてはちょっと合わなかった」ということは、有り得ると思います。

 3は、好きで花屋をやってきた人なら、これだけで心折れるってことは少ないかなと思います。ほかの理由で「つらいなあ」と思ったときに、給料の安さが最後の一撃になってポッキリいくことはあると思います。

 4は、私もこの理由で何回も折れましたね。明日にも、この理由で折れるかもしれないです。でも、私は今のところこの理由で「やめよう」にまで至ったことはありません。時間をかけても、傷を自分で癒してきました。でも、絶対に癒せないような目に、明日にもあうかもしれないです。(この「明日にも」の連呼に、花屋にとってリアルすぎることなのだという事実をお感じください)

 5は、店に何十万円もの損をさせたり、大口の顧客を逃がしてしまったりするような、本当の大ミスです。バラのバケツ倒しちゃった、みたいなことではないです。大きな会社ならば、「辞めればすむのか、仕事でミスを取り返してみせろ」という考え方もできますが、小さい店だと、本当にオーナーの家計に打撃が加わったことが明確に見えちゃったりするので、罪悪感も一入です。

 6も、私の共感できる理由ですね。私の場合、これで完全にポッキリ折れたことは無いですけど、「ダメだなあ」という思いなら、ほぼ毎日あります。
 業務の中で生まれる劣等感というのは、たとえば、「ある時点から仕事が上達しない」「ミスの数が、人より確実に多い」「がんばってトライしたことを、お客にも店にも否定される」「花束を作っても、アレンジを作っても、お客さんから満足の声が聞かれない」「自分より経験の少ない人が自分よりうまくなっている」etc...です。たまに、全然ダメじゃないのに、勝手に自分だけ「ダメだ」と思い込んで、勝手に心折れる人もいます(そういうのも、「弱さ」なんだと思います)。

 7は、花屋じゃなくても、どこでもありますよね。人間関係のストレスで、ボロボロになってやめていった人、いたな……。

 8も、どこの世界にもあることかもしれません。袋小路感とは、行き止まり感と言ってもいいです。この先、何も無いじゃん。無意味。こんなにキツくて、休みも無くて、給料も安くて、決まりきった業務をこなし、店のためと思って提案しても聞いてももらえない、ずっと袋小路のどん詰まりで、足踏みしているだけ……。
 人にそれを言えば、そんなのは甘えだ、と叱られるかもしれません。しかし結局は、トータルで考えて、「今の店で、このような葛藤をする価値は無い」と思った人は出て行くし、「葛藤してでもここに留まろう」と思う人は残っていくだけのように思います。

◆二番目は、「思っていたビジョンと違った」だと思う

 花屋さんって、私の想像していた仕事と全然違った……という人は多いです。このパターンは、こちらのページ→花屋さんに向く性格は…… でも解説しています。

 しかし、夢のように楽しい想像だけして花屋さんになり、それをちょっと裏切られたからと言って幻滅して去るような人は、いまだにゼロではありませんが、すでに少数派だと思います。
 結構つらい仕事だと理解して入ってきた花屋業界だけど、それでもなお、「思っていたビジョンと違うので辞めたい」というパターンが、現在では多いと思います。

 何が「思っていたのと違った」のかは、人それぞれだと思います。
 それは、店の環境かもしれないし、給料かもしれないし、業務の内容かもしれません。
 しかし、考えてみれば、「思っていたのと違った」というのは、どの業界の新入り君でもありえることです。会社員さんだって、「こんな毎日だと思わなかったな」ということは、あるはずです。
 てゆーか、「想像と違ったな」と思っている人のほうが、世の中には多いくらいではないでしょうか。でも、多くの「想像と違った……」と思った人たちは、そう思っても「だから辞める」には直結しないのだと思います。「想像と違った不満」と「仕事を手放す」ことを天秤にかけ、「仕事を手放す」のほうが重くなることって、そんなに無いと思います。せっかく得た仕事なのですから。

 花屋の場合、「想像と違った」から「辞めよう」に直結させてしまうのは、ほとんどがバイトの身分しか持てないことと、給料が安いことと、商売の規模が小さい(一般的な会社さんと比べたら小さいです)こと、肉体労働できつい、などの要因があいまって、
「辞めちゃってもいいかな」
と思わせるのでしょう。

◆三番目に多いのは、「体が……」かも

 おそらくですが、30代の花屋さんを集めて、
「首・腰・背中のいずれかをいためているか、もしくはいためたことがあるか、お答えください」
と問いかけたら、「Yes」が半分を超えると思います。そこから、40代、50代になれば、ほとんどの人が「Yes」と答えるでしょう。

 「首・腰・背中」をやっちゃうのは、重いものを持ち上げるor運ぶことが一番大きな理由になると思います。また、疲れが取れずに力仕事を継続することも、理由の一つになるかと思います。

 実際に、「首・腰・背中」を痛めて慢性化した場合、または重症化した場合、業務を続けるのが困難になることがあります。この理由で、全然辞めたくないのに、花屋から去っていく人は、一定の割合で存在しているはずです。

 花屋さんは、「首・腰・背中」をやっちまう苦しみを、身をもって知っています。なので、この理由で「辞めたい」と言い出されると、心情的に引き止め難いです。特に、「医者に言われた」という言葉があると、辞めないでほしいと思っていても引き下がるしかありません。
 なので、花屋をやめ易い理由を探している人は、これを言ってみるのもいいかもしれませんよ。(バレないようにね)

 花屋さんの健康の問題は、「首・腰・背中」だけとは限りません。私が見たところ、花屋さんで体を壊す人は、「ずいぶん多いんじゃないか?」と感じます。
 理由は、医者ではない私には断定できませんが、肉体労働と、勤務時間の長さ、休みの少なさ、接客ストレス、経営ストレス、夏も冬も寒い店内環境などではないでしょうか。
(花屋さんて、あまり他業種からは苦労が分からないらしく、追い詰められた末に「本当に体がつらいし、毎日の業務がつらい」と人にこぼしても、共感してもらえないことがあります。会社員さんの苦労に共感する気持ちがあるなら、花屋にも共感してくれよ、って思います)

 たまたま私の周りだけがそうなのかもしれませんが……真冬に結構な病気が発覚して、そのまま帰ってこない人が多いような……(気のせいかな)。

◆とにかく、「全般的にきつい」と、去りたくなる

 昔、「3K」という言葉が世に知られるようになったときに、花屋の間では、「うちらも3K」だよねという会話が交わされたものです。
 花屋の仕事の「キツさ」は、こちらに独立したページを設けています→花屋さんのツラいこと一覧表

 花屋のキツさなんて、ほかの仕事のキツさと、そんなに変わらないのかもしれません。むしろ楽だろ、という人もいるかもしれません。
 しかし、私の職歴の中で、「一番ツラかったな」と思われる仕事は、某花屋(特定の一店です)のバイトです。(私は、住み込みで24時間勤務の仕事をしたこともありますし、クレームガンガンのテレオペの仕事とかもしたことあります)

 ここからは、私の個人的な感触になりますが、何か一つ救いがあればもっとマシになるのに……と思います。休みも無い、給料安い、肉体労働で疲れ果てる、というのが「花屋の3大キツイ」だと思いますが、これのうちの一つでも緩和されれば、もっともっと、居ついてくれるバイトさんが増えるのにと思います。
 つまり、「これがキツいから辞めたい」のではなく、「全般的なキツさを緩和するものがないから辞めたい」になるのだと感じます。

◆本当の意味で、「仕事ができない」人はいる

 私は、花屋さんの仕事には、「特殊能力」は必要ないと思っています。人よりも、器用である必要もないし、センスも同様だと思います。なんなら、ちょい不器用、ちょいセンス悪い、くらいでも勤まります(私は、自分がこれに当たると思っています)。
 色々な要素が「ちょい低」だと、業界で一目置かれる存在とかになるのは難しいですが、一人の花屋さんとして人生を歩んでいくのに支障は無いと思います。

 しかし、稀に、「まったく残念だが、どうやら、この人は向いていないのだ」ということが、決定的に明らかな人というのが居ます。
 こういう人は、たとえば「花束作成が下手」というような、単一要素が足りないのではありません。
 下記のようなことが複数あり、改善の気配があまり無い、という人がいるのです。
  • A花とB花を区別できない(間違い易い花じゃないやつで!)
  • 値段の違う花を混ぜてしまって気が付かない
  • 同じこと(難しくない、単純なこと)を、毎日聞いてくる
  • 法則性があることなのに、覚えられない
  • 「ただの勘違い」が多すぎる
  • 店の業務が一時的にストップしてしまう類の失敗を繰り返す
  • 良かれと思ってしたことが、たいてい裏目に出る(要するに、花屋としての知識が入らず、店の合理性も把握できずに動くからそうなる)
  • なぜか、「わざわざ面倒なやりかた」で仕事をする
  • とにかく、動きがバタバタしている
  • 「この人の仕事の仕方はちょっと不思議だな」と思って理由を聞いてみると、驚くべき発想を述べることがある

 上の箇条書きだけ読むと、「馬鹿バイトだな」って感じですが、不思議なことには、実際にはほとんどの人が、「この人は、決してバカではない」と思える人なのです。また、嫌なやつでもありません。
 不幸なことに、花屋業務に先天的にマッチしない人なのだろう、と思うしかありません。どうやら、本人も賢くこの事実に気づくらしく(馬鹿じゃないからね)、「技術・知識に自信が無い」として辞めていきます。

 私の見たところ、上の箇条書きのようなことが、何ヶ月たっても改善されないのであれば、辞めたほうが人生幸せかもしれません。しかし、改善の気配が少しでもある人で、花屋業務を嫌いではない人は、踏ん張る価値もあると思います。何かをきっかけに、とんでもなくスキルアップする人というのはいるものです。(私の想像ですが、「その人の合理性」と、「花屋業務の合理性」が、何かでピタッと合わさったら、うまくいくようになるはず!と思っています)

 また、もしかすると、「この花屋の合理性だけにマッチしない人」の可能性もありますので、花屋業務自体を嫌いでないなら、別の店で働いてみるのも良いと思います。特に、花屋に入るのが夢だったという人なら、一箇所だけ試してあきらめるのはもったいないです。

 この理由で「やめようか」と相談を受けたときに、花屋業務をなめている結果こうなっているやつなら引きとめはしませんが(私の引き止めないときのセリフは、「もっと稼げて、もっと良い仕事あるよ……」です)、花を愛し、仕事も一生懸命な人だとすると、大変に困ります。
 辞めないでよ、と言うは易いのです。
 その結果、辞めずにがんばり、数ヵ月後に開眼する人ならいいですが、数ヶ月無駄にしたな、という未来も大いに有り得ます。人の未来に、無責任なことなんか言えないです。

 私なら……「辞めないで」というセリフは、その人と一緒に仕事をしたいかどうかによって、リアルに言うことになる思います。「私的には、やめないでほしいな」というのがウソじゃない相手には、そう言うでしょう。

◆「向上心」で辞めていく人もたくさんいる

 上には、なにやら悪いようなことばかり書いてきましたが、「今よりも上に行きたい」という気持ちで辞める人もたくさんいます。
 たとえば、
  • もっと稼ぎたい→給料の高い店に移る
  • 自分の好きな業務の多い店で働きたい→たとえば、ブライダルの仕事がしたいから結婚式場付きの花屋に移る、とか
  • 業界的に、「あそこはグレードが高い」と言われる店に移りたい
  • 自分の店を持って独立したい
  • 花屋の仕事は一時中断して、花の勉強をしたい→スクールに入るとか、留学するとか
などの理由があります。

 向上心を持って辞めようとするときに、たいていの花屋仲間は、その人の決断を賞賛するものです。しかし、向上心のある人は、店の大きな戦力であることも多いので、オーナーを説得するのに苦労することがあります。
 引き止められて、給料アップを持ちかけられるようなことがあれば、その金額が自分の向上心を上回るものだったら、辞めずに踏みとどまっても良いでしょう。
 どうしても、その店ではできないことをしたくて飛び立とうと思うなら、その思いを正直に話して説得してみてください。

◇辞めていった人たちの申告した「理由」

 私が今までに、実際に一緒に仕事をしていた人たちの退職理由を、下に列記してみます。
 中には、きれいにやめるためのウソがいくつか入っているのだろうと思います。人間関係で辞めた人も何人か見ましたが、公表される理由が「人間関係」だったためしはありませんでした。

  • 正社員として、ちゃんと就職したい
  • 子供ができた
  • 実家の商売を手伝います
  • 自分の店を持ちます
  • 医者に肉体労働を止められた
  • 亭主にバイトをやめろと言われた
  • 結婚して主婦になります
  • 花の仕事には向かないみたい
  • この店には向いてないみたい
  • 仕事がつらくて、続けられると思えない
  • 通勤時間2時間に耐えられなくなった
  • 実家(地方)に帰ります
  • もっと稼げる仕事をしないと生活できない

◇花屋は、「なりたい職業」であり、「やめたい職業」でもある

 私は、長年花業界で生きてきましたが、花屋というものは、「なりたい相談」も「やめたい相談」もやけに多いな、と感じます。
 なりたいのは、それだけ魅力的に見える商売だからでしょうし、やめたいのは、魅力的に見えるわりにキツくて見返りが少ないからでしょう。

 店から人が一人いなくなるとき、残った人間たちは、ふと空虚な気持ちになります。自分は、なぜ辞めないんだろうと思うことさえあります。
 でも、私は今日まで残ってきました。私にとっては、花業界が迎え入れてくれたことは、幸せなことだったと思います。昔就いていた、もっと稼げる仕事を続けるよりも、花屋業務を始めたのが幸せだったと言えます。
 「花屋になって、なんだかんだで良かった」と思う私のような人間が、「そんな私でも、やめたい気持ちに大きな共感を覚える」のが花業界なのです。お気楽商売ではありません。

 こういう「やめる・やめない」の話は、花屋の裏では、日々繰り返されている日常会話です。


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