◆黄色いヒャクニチソウ  「裏窓」 (監督 アルフレッド・ヒッチコック)

 この作品は、マニアックなヒッチファンにも評価の高い名作の一つです。
 足を怪我して車椅子生活をしているカメラマン:ジェフは、退屈しのぎに裏窓から見える光景を、毎日観察しています。日々観察しているうちに、少しずつ感じる違和感が、やがて彼の心に一つの疑惑を生じさせます。

 裏のアパートの住人は、細君を殺したのではないか?
 男が部屋から運び出した大きな荷物の中には、遺体が入っていたのではないか?

 ジェフは、この疑問を、訪ねてきた恋人:リザと、友人の刑事:ドイルに話しますが、二人とも「暇人の勝手な空想」として一笑に付し、信じようとはしません。
 しかし、リザは、細君の姿が消えたのに、彼女のバックやアクセサリーが部屋に残されていることを知ると、「女は自分のハンドバックとジュエリーは、決して手元から離さないもの」と言い、ジェフの「細君殺害説」を信じるようになります。
 リザ役は、輝くばかりに美しいグレース・ケリー。上流階級の娘で、人気ファッションモデルという設定です。なにやら非現実的な役柄ですが、ここまで美しいと何でもアリです。立っても、座っても、寝そべっても決まるグレースの美しさに、女の私でも惚れそうになりました。
 ちなみに、彼女の役柄は原作には登場しません。
 おお、言い忘れましたが、「裏窓」の原作は、当サイトのミステリの花園でも何作か紹介しているウィリアム・アイリッシュ(コーネル・ウールリッチ)による同名の短編です。アイリッシュ大好きな私は、当然原作本を所有しています。
 原作では、登場するのはおっさんばかりで、台詞のある女性登場人物はいません。ヒッチ作品の方は、リザのほかにも、看護婦のステラが出てきますが、原作に出てくるのは、男性の使用人です。
 原作どおりでは、映画的にはあまりにむさくるしい、とヒッチが思ったのかどうか分かりませんが、グレース起用は大正解だったと私は思います。美しさというのは、サスペンスを高めるのに有効みたいですから。「サイコ」のジャネット・リーの美しさは、怖さを何倍にも増幅していますものね。

 で、やっと本題です。(そうだ、花の話をするんだった!)

ヒャクニチソウ(黄)

 ジェフは、ドイルを納得させるために、殺人の証拠となるもの(推測じゃなくて)を懸命に探していて、花壇に植わった黄色いヒャクニチソウの丈が、以前よりも低くなっていることを発見します。
 低く育つ植物など無い! この花壇に、細君は埋められているのではないか? そういえば、アパートの住人が飼う犬が、しきりにこの花壇を気にして掘り返そうとしていた。その犬は、何ものかに殺されているのが見つかったのだ!

 ヒャクニチソウは、夏の花壇では、特に珍しくも高級でもなく、ありふれた花の一つです。だからこそ、何の気なしにのぞいた隣人宅の悲劇を、よりリアルに描く背景として優れているのでしょう。また、夏の盛りの花ですから、たいして裕福でもない庶民の住むアパートの暑苦しさをも象徴していて、小道具に凝り倒すヒッチが選んだ理由が、よく分かるような気がします。

 私は、この映画を劇場で、字幕入りで見ました。字幕の上では「黄色いヒャクニチソウ」になっていたので、このコラムにもそう書いてきましたが、個人的には「オレンジのヒャクニチソウ」の方がいいんじゃないかと思います。オレンジ色のヒャクニチソウの方が、黄色のヒャクニチソウよりも、多く出回っているんです。
ヒャクニチソウ(オレンジ)

 映像では、ヒャクニチソウの姿が小さすぎる(裏窓からのぞいているので、ジェフは実際には花壇に近づけない)のと、画面全体が赤っぽいのとで、黄色かオレンジか判然としませんでした。シナリオでは、「イエロー」になっているのかどうか、確かめていないので分かりません。
 え? 原作ではどうなのかって?
 さあ、分かりませんね。だって、原作には、花のようなリズ同様、ヒャクニチソウも存在しないのですから。


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