◆ビールの祭典〈ビールメーカーの花事業について〉

キリンビール サントリー 花事業

◇ビールメーカーは、お花好き?

 キリンマムを知っていますかのコラムでもご紹介していますが、面白いことに日本の大手ビールメーカーのほとんどは、生花販売・種苗販売に参入した経験があります。
 ビールメーカーさんは、「麦とホップのスペシャリスト」であり「酵母の育成・開発技術のスペシャリスト」ですから、もともとある種の「植物系技術のスペシャリスト」には違いない企業さんだったわけで、その技術を生かして、各社の花事業参入が行われたようです。
 その中でも、キリンサントリーは、ビールの販売合戦並みの熱い戦いを、種苗業界で繰り広げました。両社ともに、世界的な販売ルートを開拓していたため、2009年に「サントリーとキリン経営統合 花部門も、行く行くは統合」のニュースが流れたときには、種苗販売の世界地図さえ変わるのではないかと言われたほどです。
 しかし、その後、両社の統合話しは決裂し、その直後、キリンは種苗ビジネスから撤退してしまいましたので、現在では、「花も作るビール屋」の分野は、ほとんどサントリーの独壇場となっています。

◇先輩サントリー、後輩キリンビール

 サントリーとキリンでは、花事業の歴史が長いのは、ほんの数年の差でサントリーです。キリンが参入した1989年には、サントリーはすでに、1985年から開発に着手していたオリジナル品種の販売に踏み切っていました。
 そのオリジナル品種というのが、何を隠そう「サフィニア」です。
 皆さん、知ってました? あの、サフィニアを作ったのは、サントリーフラワーズなのです(厳密に言うと、京成バラ園芸との共同開発)。サフィニアは、いまやペチュニアの代名詞ですね。サフィニアって、ずっと昔からあったペチュニアの一品種じゃないの?という方、たくさんおられることでしょうが、そうではないのです!
 ほんの20年ほど前に、酒メーカーのグループ企業がこさえた新品種なんですよ。
 この品種は、実にすばらしいです。花つき、姿が美しく、花数が多い。この花の美は、それまでのペチュニアが持っていたイメージを大きく引き上げました。私が花屋で実際に売ったものでは、足つきテラコッタで、1鉢6000円のものが最高値でしたが、入荷した次の日曜日に売れちゃいました。サフィニア登場以前のペチュニアは、高くても数百円の世界だったのに!
 サフィニアのえらいのは、園芸業界全体の勢いをも引き上げたことです。90年代の日本で沸き起こったガーデニングブームの火付け役となったのはこの花でした。
 時は 21世紀に移り、お祭り騒ぎのようだったバブル経済が死に絶えた後も、ガーデニングブームは息の長い人気を保ち続けています。
 その口火を切ったのがサフィニア! 今では全世界的な人気種になりました。

◇先発サントリーを、後発キリンが追撃

 サフィニアを開発したサントリーに、到底かなわないかと思いきや、後発キリンの追い上げは、目覚しいものがありました。花苗の販売シェアにおいては、キリンの方が一歩リードしている時代があったくらいです。
 しかも、キリンは商品の範囲が広く、当時サントリーでは扱っていなかった野菜類、切花も販売していました。私個人としては、切花を多く扱う関係上、キリン生まれの花の方とのお付き合いの方が多かったです。
 キリンとサントリーの得意な品種をそれぞれ挙げてみると、

キリン……ペチュニア、ダリア、マム、カーネーション
サントリー……ペチュニア、ダリア、バーベナ、カーネーション、スミレ

↑上記のようになりまして、あまり圧倒的な差はありませんでした。
 販売シェアでは、前述したように、キリンの方が少し上回っていました(事業を売却するときまで)。
 特に、キリンは海外の販売に大変力を入れていました。欧米の花卉関連企業を多数傘下に収め、カーネーション部門においては、なんと、世界一の販売シェアでした。また、アメリカでの販売ルート開発に大成功し、アメリカのペチュニア販売では、何年も前からキリン品種がダントツの一位を独走していました。サントリーも、もちろん海外での販売をしていますが、キリンの方が、明らかに積極的に販路を開いていました。
 しかし、サントリーをあなどってはいけません。彼らは、販売ルートが完全に出来上がり、後から入り込むことが難しいと言われた花卉業界に、酒類メーカーとしては最初に挑んで行った斬り込み隊長です。販売ルートを獲得していく段階で、彼らは酒造メーカーの販売ノウハウを駆使し、血の滲む努力をしたといいます。サントリーは、簡単に「花も作るビール屋のトップ」の地位を明け渡しはしませんでした。

◇企業の心意気というもの

  キリンとサントリーを比べたときに、「何でもやってやるぞ」という気概を感じたのは、どうもキリンの方であったように思います。
 上にも書きましたが、キリンは守備範囲が広く、花好きにウケそうなものは、取りあえず網羅していこう、という姿勢が感じられました。そして、彼らは「キリンマム」「キリンウェーブ(ペチュニアの一種)」など、品種に自らの企業名をつけることがよくありました。これは明らかに、「皆さんにおなじみのキリンビールの花ですよ」というアピールであったに違い有りません。
 一方、サントリーには、企業名を冠した名を持つ品種はありません。(ちなみに、「サフィニア」とは、サーフィンをイメージしてつけた名だそうです。匍匐する茎を波に見立てたのでしょう)
 こう書くと、どうもサントリーがキリンに押されていたように思われるかもしれませんが、なんのなんの。サントリーは昔も今もパイオニアです。
 どうやら、「不可能への挑戦」「飽くなき夢の追求」といった観点から見ると、サントリーは常にキリンの一歩前を歩いていた感が有ります。
 あまりに偉大なので、何度も書きますが、サフィニアの開発がまさにそれです。今あるものを発展させよう、というよりは、今無いものを作ろう、という姿勢の元に、サントリーの花たちは作られていることが多いのです。ペチュニアを、垂れ下がる釣り鉢で楽しむ時が来るなんて、私の子供の頃には考えられませんでした。
 サントリーは、小輪多花の、一見ペチュニアには見えないようなペチュニアも開発しています。ほんの指先ほどの花で(品種名:ミリオンベル)、ここまで小輪のものの開発は世界初でした。キリンもペチュニアは得意で、夢のように美しい八重咲きの品種(品種名:十二衣)などありますが、ことペチュニアに関しては、サントリーの後追いの感があったことは否めません。

 また、キリンが「どっこいしょう」と花事業に手をつけ始めたばかりの1990年頃には、サントリーは夢の青いバラの開発をスタートさせていました。そして、その開発途中に生まれた青いカーネーション(品種名:ムーンダスト)を、青バラに先んじて完成させました。
カーネーション(ムーンダスト/いづれか2〜3色MIX)

 「夢の青バラ」も、青カーネーションに続いて完成させ、2009年11月3日から一般市場に出回るようになりました。(関連記事:サントリーフラワーズ株式会社) 青バラは、「アプローズ」と名づけられ、一本2000〜3000円代の値段が付く高級バラとして、広く認知を獲得し、ギフトとしては定着してきている気配すらあります。

◇サントリーの挑戦は続く

 私は、キリンが花事業部(アグリ事業部という名称だったかな?)を売却すると聞いたときには、心底驚きました。だって、キリンは花事業に、とても力を入れていたからです。聞くところによると、ビール部門と花部門の間を、社員さんは普通に人事異動していたらしく(伝聞情報ですけど)、花だけ切り離すとは思っていませんでした。しかし、キリンは結局海外資本に花事業を売却し、花部門からは完全に撤退してしまいました。
 残されたサントリーはといえば……こんな感じです。
 大変元気な感じで、実に結構です! 現在では、野菜苗や、切花市場にも参入してきて、より総合的な花卉事業に発展しています。そして、会社の「顔」というべき主力商品が何なのか、非常に明確ですね。
 ガーデニングは、サフィニアとミリオンベルで勝負だかかってこい!
 切花にはアプローズとムーンダストがいるんだぞ参ったか!

 いずれも、夢とロマンの結晶であるところがすばらしい。
 どうか、サントリーには更なる夢をかなえていただきたいものです。



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